質量欠損と結合エネルギー

質量欠損と結合エネルギー

高校物理で習う原子の分野に、質量欠損と結合エネルギーがある。
例えば、こんな問題がある。

原子番号Zで質量数Aの原子核の質量がMのとき、結合エネルギーΔEはいくらか。
ただし、陽子の質量をmp、中性子の質量をmnとする。

これは、核子をすべてバラバラにした静止エネルギーから結合している原子核の静止エネルギーを引き算して、

ΔE={Zmp+(A-Z)mn-M}c^2

と書ける。とか。

相対論で導かれる質量とエネルギーは等価であるという結論、E=mc^2を使って計算する問題。

そして、教科書には図など載っていて、載ってる例も原子核しか見たことない。
下の絵は、2個の重水素(陽子1個と中性子1個が結合したもの)とヘリウムの原子核(2個の陽子と2個の中性子が結合して1つの原子核になったもの)をてんびんに乗せると、バラバラにした2個の重水素のほうが重いというのを説明した図である。

こういうのを見ると、「質量欠損と結合エネルギー」というのは原子核の分野に特有のことかのように思えてしまうけど、そうではない。

何らかの力で結合している系は、すべて質量欠損しており、その質量欠損にc^2を掛けたものが結合エネルギーになる。

原子核は核力という強い力で相互作用している系。

では、例えば水素原子。これは陽子1個と電子1個が電磁気力で相互作用している系。これも、陽子1個と電子1個にバラバラにしたほうが質量が大きい。

もっとマクロな系。地球と月。地球と月は重力で相互作用して結合している系である。これも、地球と月をバラバラに、つまり地球と月を無限遠まで遠ざけた場合の質量のほうが大きい。

相対論のエネルギーと質量の等価性は「原子核に限る」のような制限は一切ない。すべてに当てはまる法則である。

逆に、相対論はそもそも宇宙の時空がどうなっているかというスケールの大きな話であったにもかかわらず、その理論の結果が原子核の結合エネルギーというミクロな世界まで規定しているということに驚くべきなのだ。

ではなぜ原子核のところで質量欠損のハナシが出てくるかというと、強い力は文字どおり強い力であって、質量欠損がその系の大きさに比べて顕著に目立つから。
ちなみに「強い力」というのは専門用語。さらにちなみに「弱い力」という専門用語もある(弱い力はベータ崩壊に関係した力)。

地球と月の質量欠損を計算してみよう。
月と地球を無限遠まで遠ざけるに必要な仕事が、まさに質量欠損である。
それは、無限遠をゼロとしたときの地球と月の結合エネルギー、つまりポテンシャルエネルギーに等しい。

ΔE=GMm/rで、M、m、G、r、はそれぞれ地球質量、月質量、万有引力定数、月と地球の距離である。実際数字を入れて、それを光速度cの2乗で割って、どれだけ質量が大きくなるか電卓で計算すると、10の12乗キログラム程度になる。月の質量が10の22乗程度だから、10桁も小さい値だが、それでも車1億台くらいの質量が増える。

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